脳を若く保つ習慣:北欧シニアに学ぶ認知症予防の日常

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「最近、親の物忘れが気になるようになった」

 「自分も将来、認知症になってしまうのだろうか」

認知症は誰でもなり得る病気です。厚生労働省によると、2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になると推計されており、多くの方が「予防できることがあるなら、今から始めたい」と考えているでしょう。

そんな中、世界的に注目されているのが北欧諸国の認知症予防研究です。特にフィンランドで行われた画期的な研究「FINGER研究」やスウェーデンの独自のケア手法が成果を上げています。

この記事では、北欧の最新研究と実践から学ぶ、今日から始められる認知症予防の習慣を紹介します。

世界が注目するフィンランドのFINGER研究

2009年から2011年にかけてフィンランドで実施された「高齢者の生活習慣への介入による認知機能障害予防の研究(FINGER研究)」によって、認知症予防の分野は大きな変革を迎えました。FINGER研究とは、認知症のリスクがやや高い60歳から77歳までの高齢者1,260人を対象に、2年間にわたって包括的な生活習慣改善プログラムを実施した研究です。

その結果、生活習慣改善グループでは認知機能の処理速度が150%向上、実行機能が83%向上し、対照グループと比較して25%高いスコアを記録しました。薬物治療に頼らない認知症予防の可能性を世界で初めて科学的に実証した画期的な成果です。

FINGER研究の4つの柱

FINGER研究で効果が実証された予防ポイントは次の4つです。

次のように、徹底した食事指導が行われました。

理学療法士による体系的な運動プログラムも特徴的です。

脳の機能を維持・向上させる認知訓練も繰り返し実施されました。

生活習慣病の管理と血管の健康維持は、認知症予防にも効果があると実証されています。

スウェーデンの「オムソーリ」ケア

スウェーデンでは、認知症介護の現場で「オムソーリ(Omsorg)」と呼ばれる独特なケア手法が実践されています。オムソーリとは「悲しみや幸せを分かち合う」という原義を持つスウェーデン古来の言葉で、認知症予防にもその理念が応用されています。

・ ポイントを絞ったニーズケア
→ その人にとって本当に必要なケアを見極める

・ 自立支援の徹底
→ できることは手伝わず、できないことだけ援助

・ 非マニュアル対応
→ 個々の状況に応じた柔軟な対応

・ 豊富な会話
→ 些細なことからも会話を膨らませ、脳を刺激

スウェーデンでは、1日わずか15分の訪問でも認知症の人が在宅生活を維持できています。「必要最小限の支援で最大限の自立」を目指すオムソーリの哲学によるものです。

日本で始まるFINGER研究の実践

2019年から日本でも、国立長寿医療研究センターを中心として「認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較試験(J-MINT研究)」が開始されました。神戸大学が兵庫県丹波市で実施したJ-MINT PRIME Tamba研究では、運動を主体とした複合的な介入プログラムを週1回90分、18カ月間継続することで、高齢者の認知機能が有意に改善することが実証されました。

今日から始められる北欧式認知症予防習慣

私たちがすぐに実践できる北欧式の認知症予防習慣を紹介します。

魚中心の食生活に変える
・ 週2回以上の魚摂取(特にサバ、サケなどの青魚)
・ オメガ3脂肪酸を1日2.5〜3g摂取

野菜と果物をたくさん摂る
・ 1日350g以上の野菜摂取
・ 色とりどりの野菜を意識して選ぶ
・ 精製されていない全粒穀物を選択

塩分・糖分制限を徹底する
・ 1日の塩分摂取量を5g以下に
・ 砂糖の摂取を1日50g以下に制限

有酸素運動
・ 週2〜5回、1回30分程度のウォーキング
・ 軽く息が上がる程度の強度を維持
・ 階段の利用や早歩きを心がける

筋力トレーニング
・ 週1〜3回の筋力強化運動
・ スクワット、腕立て伏せなど自重トレーニングから開始
・ 大きな筋肉群を意識した運動

日常的な脳トレーニング
・ 読書や新聞の音読
・ パズルや計算問題への挑戦
・ 新しい趣味やスキルの習得

社会参加を意識して行う
・ 地域活動やボランティアへの参加
・ 家族や友人との積極的な交流
・ 学習会やサークル活動への参加

定期的な健康チェック
・ 血圧、血糖値、コレステロール値の定期測定
・ 年1回の人間ドック受診
・ かかりつけ医との定期的な相談

良質な睡眠の確保
・ 1日7〜8時間の睡眠時間
・ 規則正しい就寝・起床時間
・ 睡眠の質を向上させる寝室環境や寝具の見直し

まとめ

北欧の先進的な研究と実践から学ぶ認知症予防方法は、いずれも特別な医療技術や高額な費用を必要としません。FINGER研究で実証されたように、食事、運動、認知活動、生活習慣病管理という4つの要素を組み合わせることで、認知機能の低下を抑制できる可能性があります。

重要なのは、できることから今すぐ始めることです。早いうちから予防習慣を身につけることで、自分自身の将来への安心はもちろん、親世代への良い影響も期待できます。

北欧シニアの知恵を日常に取り入れ、家族みんなで脳の健康を守り、認知症予防に繋げましょう。

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<参考文献>

​​Kivipelto M, et al. “A 2 year multidomain intervention of diet, exercise, cognitive training, and vascular risk monitoring versus control to prevent cognitive decline in at-risk elderly people (FINGER): a randomised controlled trial.” The Lancet. 2015 Jun 6;385(9984):2255-63.

太陽生命「生活習慣の改善が認知症予防になる〜フィンランドのFINGER研究より〜」

国立長寿医療研究センター「世界初『FINGER研究の社会実装プログラム』公認取得」

神戸大学「運動を主体とした多因子介入により認知機能が向上」

NEWS SALT(ニュースソルト)「福祉国家スウェーデンの認知高齢者ケア 45%が一人暮らしを継続」

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