「認知症基本法」成立・施行から1年で社会はどう変わったのか?

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2023年6月14日、「認知症基本法」が国会で成立し、2024年1月1日に施行してから1年が経過しました。この法律は、認知症の人が尊厳を持って暮らせる社会の実現を目指すものです。

そこでこの記事では、2024年1月1日の施行後、どのような変化が起きたのか、また今後の課題は何かを見ていきましょう。

認知症基本法の特徴

認知症基本法は、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができる社会の実現を目指す画期的な法律です。

主なポイントは次の6つです。

特に注目すべき点は、認知症を個人の問題ではなく社会全体で取り組むべき課題として位置づけていることです。国は、目指す社会像として、認知症の人を含むすべての国民が互いの人格と個性を尊重し、支え合いながら共生する活力ある社会を掲げています。

この法律は、認知症に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための基本方針を示すとともに、国や地方公共団体といった行政の責務を明確にしています。また、当事者の声を政策に反映させる仕組みも設けられています。

法律に基づく主な取り組み

認知症基本法に基づき、次のような取り組みが始まっています。

学校教育では、認知症サポーター養成講座の簡易版を授業に取り入れる学校が増加しています。社会教育でも、公民館や生涯学習センターでの認知症関連講座が充実してきました。

また、「認知症とともに生きる社会」をテーマにした全国規模の啓発キャンペーンが展開され、CMや街頭ポスターなどで認知症に関する正しい知識の普及が図られています。

認知症専門医の育成に力が入れられ、認知症サポート医の数は2023年度末時点で14,610人となっています。また、認知症初期集中支援チームの体制強化が進み、早期診断・早期対応の仕組みが整いつつあります。

地域包括ケアシステムの強化も進んでおり、認知症カフェの設置数が増加し、認知症の人と家族、地域住民、専門職が気軽に集える場所が各地に広がっています。

参照:認知症サポート医養成研修|国立長寿医療研究センター

アルツハイマー病の新薬開発に関しては、複数の製薬会社が臨床試験を進めており、期待が高まっています。また、AIやIoTを活用した認知症ケア技術の開発も進んでおり、見守りシステムや服薬管理支援ツールなど、実用化に向けた取り組みが加速しています。

認知症の方とその家族の生活の変化

意思決定支援の取り組みでは、医療や介護の現場で認知症の人の意思を尊重する動きが広がっています。治療方針の決定や介護サービスの選択において、本人の希望をより丁寧に聞き取り、反映させる努力が行われるようになりました。

また、社会参加の機会拡大については、認知症カフェでのボランティア活動や、自治体の政策立案への参画など、認知症の人の経験や知恵を生かす取り組みが各地で始まっています。また、認知症の人による当事者組織の活動も活発化しています。

そして、家族支援も拡充中です。レスパイトケアの利用促進や、家族介護者向けの相談窓口の増設など、介護者の負担軽減を図る施策が強化されています。若年性認知症の方の家族に対する就労支援や経済的支援も拡充されつつあります。

さらに、バリアフリー化の進展も見られます。公共施設や商業施設での認知症の人への配慮が増え、わかりやすいサイン表示や休憩スペースの設置などが進んできました。また、金融機関では認知症の人でも利用しやすい商品やサービスの開発が進められています。

企業や地域社会で期待される取り組み

企業における認知症に対する理解促進では、従業員向けの認知症サポーター養成講座の開催が増加しています。特に小売業やサービス業では、認知症の顧客への適切な対応を学ぶ研修プログラムを導入する企業が増えています。

就労継続支援の取り組みも始まっており、若年性認知症や軽度認知障害の方が働き続けられるよう、業務内容の調整や勤務時間の柔軟化などを行う企業が現れています。

また、地域社会では、認知症サポーターの増加が顕著です。養成されたサポーターが実際に活動する場として、「チームオレンジ」と呼ばれる地域支援体制の構築も各地で進んでいます。

地域での見守り体制の強化も多くの自治体で進んでいます。認知症の人の見守りネットワークが構築され、地域コミュニティの住民や公共機関、民間業者などが協力して、認知症の人の異変に気づき、支援につなげる体制が整備されつつあります。

この他、認知症カフェの運営や認知症予防教室の開催など、地域住民が主体となって認知症支援に取り組む活動も増えています。

まとめ

認知症基本法の施行から1年が経過し、様々な分野で具体的な取り組みが始まっていますが、さらなる理解促進、医療・介護人材の確保と育成、研究開発の加速といった課題も残されています。共生社会の実現に向けて、長期的な視点で取り組みを続けていくことが重要です。

参照:『認知症基本法』の成立から1年、鳥取県ではどんな取り組みをしている?_とりネット_鳥取県公式サイト
参照:『資料4 共生社会の実現を推進するための認知症基本法について』|厚生労働省 老健局