超高齢化社会の日本では、年々認知症患者が増加。2020年時点で、65歳以上の高齢者の16.7%、実に6人に1人が認知症を患っています。
脳細胞にダメージが起きて、記憶や判断力に障害が出る認知症は、「もの忘れ」や「徘徊」といったイメージが一般的でしょう。
ここでは、高齢者にとって身近な病気である認知症の原因や症状、予防や対策についてご紹介します。
認知症の「もの忘れ」の特徴とは
「もの忘れ」は認知症の代表的な症状のひとつ。しかし、もの忘れすべてが認知症によるものとは限りません。
誰しも年齢とともに、うっかり忘れることは増えてきます。
「日常生活でさっき置いた場所を忘れてしまった」
「知り合いの名前が出てこなくなって、もどかしい」
なかなか思い出せなくてじれったい思いをする経験、ありませんか。しかし、ゆっくり記憶を思い浮かべていって、記憶の糸口を見つけると「あ!そうだった!」と思い出せる——。これが老化によるもの忘れの典型例です。
一方で、認知症のもの忘れははるかに深刻です。
「昼ご飯を食べた直後なのに、昼食を取ったこと自体を忘れていた」
「毎日会っている子供が誰だかわからない」
認知症のもの忘れが進行すると、人との交流や外出はおろか、自宅での生活にまで支障が出てしまいます。
認知症の初期症状は軽度の記憶障害から
年のせいと片付けられないようなもの忘れによって認知症だと気づくケースが大半です。脳の中で軽度の記憶障害が起こっていると考えられます。
何度も同じ質問を繰り返したり、家事や趣味ができなくなったり、もの忘れや人の名前が出てこないといった症状が増えてきます。
やがて、日付や曜日、季節や今居る場所がわからないといった見当識障害が見られるようになると、周囲の人たちも明らかに老化によるもの忘れとは区別できるでしょう。
認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)
認知症の症状は、さまざまな症状を生み出す大元の症状と、それに影響されて生まれる周辺症状とに分かれます。
▼中核症状
中核症状の主なものは次の通りです。
①記憶障害
昔の思い出は思い出せるのに、最近の出来事は思い出せないといった即時記憶障害が顕著に現れます。症状が重度になるにつれて、昨日今日の記憶はもちろんのこと、過去の思い出も失われていくため、日常生活はおろかコミュニケーションも困難になってしまうのです。
②見当識障害
自分が今、いつ、どこにいるのか、そもそも自分とは誰なのか、といった認識ができなくなる障害です。認知症の初期は、時間感覚や日付や季節がわからなくなりがちです。そのうち、自宅までの帰り方がわからなくなったり、家族が誰かわからず他人に見えたりしはじめます。
③失認・失行・失語
五感で周囲の状況を判断できなくなったり、病気やケガがないにもかかわらず、着替えができない、ハサミやリモコンが使えなくなるといった症状が現れます。また、言葉が出にくくなる、人の話が理解できない、などコミュニケーション能力が著しく低下する症状も認知症の中核症状です。
④実行機能障害・判断力障害
脳の機能に何らかのダメージを受けてしまい、計画的に物事を進めたり、論理的に判断したりできなくなります。日常生活では買い物でお金を払えない、料理や掃除ができないなど、複雑な手順をともなう動作や家事ほど、やり方がわからなくなって投げ出したり、最初からやろうとしなくなるのです。
思いつきで急に行動を起こす、一々説明しないとやり方がわからず行動しない、といった症状も強まります。
▼周辺症状(BPSD)
中核症状がきっかけで、二次的に現れる症状を周辺症状と呼びます。「行動・心理症状」や英語の略語で「BPSD」とも言われています。
周辺症状は、本人の人生経験や生活環境、性格などによって症状の出方に違いがあるのが特徴です。個人差が大きいので、認知症患者1人ひとりの特性をつかみながらの対応を心がけます。
①行動症状
認知症のステレオタイプともいえる「徘徊」は周辺症状の代表例です。自分の家がどこだかわからなくなって、安心できる場所を探し回るためだったり、家族に理解されない不安を理由に徘徊すると考えられています。
また、認知症の原因によっては、暴言や暴力、睡眠障害や食行動異常、性行動異常などもともなう患者がいます。
②心理症状
妄想やうつ状態、アパシー(無気力状態)なども認知症の進行とともに現れやすい症状です。
妄想が起きるメカニズムの例として、記憶障害による物取られ妄想があります。自分がどこかに置き忘れたのに、他人が盗んだと勝手に思い込んでしまうのです。
また、メンタル的なエネルギーが低下して、抑うつや感傷的な思いにとらわれやすくなったり、それまで好きだった趣味に興味を示さなくなったりしていきます。
4大認知症の種類
認知症には主に4つの種類の病名があります。
①アルツハイマー型認知症
脳の側頭葉や頭頂葉に損傷が現れる認知症です。記憶障害や見当識障害が現れやすいため、今あったことを思い出せない、今日の日付や曜日がわからない、といった症状が目立ちます。
②脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳の血管の病気がきっかけで前頭葉にダメージを受けて発症します。計画通り物事を進められなくなる実行機能障害が代表的な症状で、頭の回転がゆっくりになり、動作も遅くなっていきます。
③レビー小体型認知症
脳の内部にレビー小体というタンパク質が形成されて、脳細胞が減少するというメカニズムで認知症に発展します。主に後頭葉にダメージを受けやすく、幻視のほかパーキンソン病のように転倒しやすくなったり、手足が震えやすくなったりする症状が目立つ認知症です。
④前頭型側頭型認知症
前頭葉や側頭葉の部位に損傷を受けて、感情がコントロールできない、反社会的な行為を繰り返す、言語障害が起きる、といった症状が特徴です。
まとめ
認知症は加齢とともに誰でもリスクが高まる病気のひとつです。自分のこと、家族のことがわからなくなってしまうと、介護する周囲も大変な思いが続くのは確かです、ただ、認知症の正しい理解を通して、認知症特有の症状にどう対応すればいいか知っておけば、より適切な介護ケアにつながるでしょう。