加齢とともに起きる筋力や体力の低下を防ぐため、日々のリハビリはとても大切です。老人ホームに行くと、今ある身体機能を維持しつつ、健康的な毎日を目指してリハビリに取り組む高齢者の姿を目にします。
老人ホームの中には、リハビリに力を入れている施設も少なくありません。老人ホームでは、どのようなリハビリを受けられるのでしょうか。また、リハビリ体制が充実している老人ホームについても触れていきます。
老人ホームで受けられるリハビリは4種類
老人ホームでは、リハビリテーションの専門資格のあるスタッフを中心に、次の4つのリハビリを実施しています。
① 理学療法士(PT)によるリハビリ
理学療法士は、歩く、立つ、座るなどの運動機能を回復させる機能回復訓練のプロ。たとえば、足の骨折などで歩行に支障が生まれた方が歩けるようにリハビリしたり、脳血管障害などの後遺症で麻痺が出た方に歩行や立位、座位を取りやすいように訓練します。
高齢者の身体を支えたり、付き添いしながら運動機能が低下している箇所を動かしたり、無理のない立ち方や座り方、起き上がり方を指導します。これを運動療法といいます。車イスや杖、歩行器の使い方を教えるリハビリもあります。このほか、マッサージや電気・温熱治療で痛みを和らげたり、動きをよくする物理療法もよく取り入れられています。
② 作業療法士(OT)によるリハビリ
作業療法士は、日常生活を想定した動作に必要な運動能力を回復するリハビリのスペシャリストです。食事での箸やスプーンの使い方やトイレでの流れ、ドアの開き締めの方法など、普段の行動や家事などをイメージして機能回復訓練をします。
また、ボールや輪投げを使った運動遊びや絵画や手芸、木工など簡単なスポーツや趣味を通じたリハビリもよく行われます。日常生活動作や家事をはじめスポーツやゲーム、趣味などを使った作業療法は、脳に刺激を与えて認知症予防やQOL(人生の質)向上にも役立つ大切なリハビリです。
③ 言語聴覚士(ST)によるリハビリ
言葉によるコミュニケーション能力の回復や改善につなげるリハビリのプロです。発音や発声のしかた、言葉の選び方や話し方はもちろん、言語を扱うのに必要な口や舌、唇などの使い方も指導します。さらに、加齢や脳血管障害などで起きる嚥下障害の原因を調べて、食事の際に食べ物を飲みこみやすくするリハビリも行っています。
具体的なリハビリでは、言葉の使い方、口の開閉方法や飲み込み方を中心に機能回復訓練が行われます。補聴器や点字器などを使う場合もあります。
④ 生活リハビリ
生活リハビリとは、日常生活すべてをリハビリの場と考えて、本人の状態やペースに合わせて着替えや食事、トイレや入浴などを自分自身の力を使ってこなすためのサポートをするものです。理学療法士など国家資格を持つリハビリスタッフが特別な訓練を行うのと違って、日常生活の動作をそばの介護スタッフが付き添いや見守りしながら、リハビリのようにこなしていきます。
たとえば、それまで居室からトイレまで車イスで移動していた方が、介護スタッフの手を借りながら歩行器や廊下の手すりを使ってトイレまで行き、排泄を済ませて戻ってくるのも、生活リハビリです。
なぜ高齢者にはリハビリが大切か
リハビリは、理学療法士や作業療法士といった国家資格を有するリハビリスタッフが行う機能訓練によって、高齢者の体力を維持して、筋力をつけ、健康を保つのが目的です。リハビリで身体を動かせば全身運動になるので、心肺機能を鍛えたり、関節が硬くなるのを予防する狙いも持っています。さらに、近年、運動が脳の働きや認知症予防と大きく関わっていることがわかってきました。積極的にリハビリを受けて日々身体を動かしていくと、脳の機能やメンタル面でプラスの効果も期待できます。高齢者で活動量が低下していたり、生活リズムが乱れて昼夜逆転現象が起きたりすると、メンタル的に不安定となり老人性うつや認知症リスクにつながるおそれも少なくありません。日常生活で定期的にリハビリする機会を設けておけば、生活にリズムが生まれるのはもちろんのこと、モチベーションを高めるのにもつながります。
リハビリの専門職は、機能回復訓練の専門知識とスキル、経験を積んでいます。本人の身体状態に合わせて作成されたリハビリの計画書に基づいて、段階的に目標を決めて失われた運動機能を回復するためのリハビリテーションを行っていくのです。
リハビリ体制の充実した3つの老人ホーム
老人ホームのうち、とくにリハビリ体制が充実していてより積極的な機能回復訓練が受けられる施設があります。一つずつ、その特徴をご紹介します。
①介護老人保健施設
病気やケガで入院していた高齢者で、いきなり退院して自宅に戻るのは不安があるときに利用します。在宅復帰が大きな目的のため、自宅での生活を念頭に手厚いリハビリを受けられるのがポイントです。理学療法士や作業療法士などリハビリのプロによる機能回復訓練のほか、食事介助や入浴介助、排泄介助など身体介護を受けながら生活します。
②介護療養型医療施設
医学的管理を受けながら医療的処置とリハビリをセットで受けられる老人ホームです。身体状態に合わせて医療ケアが受けられるほか、リハビリも充実しています。食事や入浴、排泄などの介護サービスも施設で提供しています。
③介護付有料老人ホームなど民間施設
民間施設のうち、リハビリの充実度をアピールする老人ホームも増えてきました。健康寿命を伸ばすため、高齢者にとって日々のリハビリは欠かせません。理学療法士や作業療法士など機能回復訓練のスペシャリストが常駐していたり、施設のプログラムに沿ってリハビリを行う施設もあります。
まとめ
リハビリは単に運動機能を回復させて日常生活の動作をしやすくするためだけのものではありません。定期的に身体を動かすと、脳の働きもアップして気持ちのハリも生まれます。また、生活リズムが整って、認知症予防や生きがいづくりにも役立つのです。老人ホームを選ぶポイントとして、充実したリハビリを受けられるかという視点も大切だといえるでしょう。