
介護現場の人手不足や業務負担の増加が続く中、介護の質を高めるための”支援ツール”としてAIやロボット技術の活用が期待されています。
ただし、AIで実際に介護現場の課題を解決したり、人の温もりのある介護を実現できるのでしょうか?
本記事では、最新の取り組みや今後の展望について紹介しますので、最後までご一読ください。
AIによる感情分析で変わる介護現場

2024年から介護施設でのAI活用は新たな段階に入りました。その代表例が、入居者の感情変化を予測・分析するAIシステムです。
入居者の映像・音声データから感情を分析し、怒りや悲しみ、恐れ、平静、嫌悪、幸福、驚きの7種類に分類するもので、実証実験では約75%の精度で感情の変化を捉えることに成功し、2024年度中の事業化を目指しました。
このAIシステムは、入居者の不快感やストレスの予兆を早期に発見できる点に特徴があります。例えば、特定の場面や状況で入居者がネガティブな感情を示す傾向がわかれば、事前に対策を立てることが可能です。また、介護記録やスタッフのアンケート結果と組み合わせれば、より正確な感情分析が可能になります。
参考:AI を活用し介護施設入居者の感情変化の予兆を検知する実証実験を実施:2024年8月6日|日立グループ
対話支援AIがもたらす可能性

もう一つの注目すべき取り組みは、AI音声対話システムです。高齢者との日常的な会話を通じて認知機能の維持・改善を支援します。
特に、認知症の方が同じ質問を繰り返す場合でも、AIは疲れることなく対応できるため、家族や介護スタッフの精神的負担の軽減につながります。
会話は認知機能の維持に重要な役割を果たしますが、介護現場の人手不足により、十分な対話の時間を確保できないことが課題でした。AI対話システムの導入により、高齢者は好きな時に会話を楽しむことができ、スタッフは他の業務に集中できるようになります。
人にしかできない介護の役割

ただし、AIにできることには限界があります。
厚生労働省は、ケアプランの最終決定など、人の人生に深く関わる判断についてはAIに任せることはできないとはっきりと示しています。
例えば、ケアプラン作成において、利用者の生活歴や家族関係、その人らしい生活とは何かなど、数値化できない要素を総合的に判断するプロセスは、経験豊富な介護支援専門員にしかできない重要な役割です。
また、介護現場では予期せぬ事態が日常的に発生します。転倒のリスクがある方が突然立ち上がったり、認知症の方が急に気分の変化が起きるなど、状況に応じた柔軟な対応が求められます。
こうした場面では、人の経験と判断力、そして何より温かみのある声かけや対応が欠かせません。AIは支援ツールとして活用しながらも、人にしかできないケアは引き続き介護スタッフが担当する流れは今後も変わらないでしょう。
2025年に向けた新展開

経済産業省と厚生労働省は2025年4月から、介護テクノロジーの重点分野を拡大しました。
新たに追加された3分野の具体的な内容は下記の通りです。
1.機能訓練支援
2.食事・栄養管理支援
3.認知症生活支援・認知症ケア支援
参考:「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂しました (METI_経済産業省)
上記の新分野の追加によって、介護テクノロジーの活用範囲は従来の移乗支援や見守りシステムから、より包括的な支援へと広がります。特に認知症ケア支援は、増加する認知症高齢者への対応という社会的課題に向けた重要な取り組みとして期待されるポイントです。
課題と展望

AIやロボット技術の導入が進む中、これからも大切にしなければならないのは、「介護の本質を見失わない」ことです。介護の基本は、その人らしい生活を支えること。テクノロジーはあくまでもそれを実現するための「支援ツール」に過ぎません。
具体例として、見守りシステムの導入することで、夜間の巡回業務が効率化され、その時間を利用者との会話や個別ケアの充実に充てることができます。また、AIによる業務支援で書類作成の時間が短縮されれば、その分を利用者の趣味のサポートや家族との連携強化に活用可能です。
このように、テクノロジーの活用で生まれた時間や余裕を、人にしかできない温かみのあるケアの充実に振り向けていく視点が、これからの介護現場に求められる姿といえるでしょう。
まとめ

介護分野におけるAI活用は、単なる業務効率化を超えて、介護の質を高める新たなステージに入っています。しかし、あくまでも人による介護を支援するものであり、テクノロジーの活用と人の温もりのある介護の両立こそが、これからの介護現場の目指すべき姿といえるでしょう。
<参考サイト>
・介護テクノロジーの利用促進|厚生労働省
・「AIが介護業界の人材不足を救えるか」コラム|三菱電機ITソリューションズ
・在宅介護を円滑にさせる「対話型AI」とは?認知機能を維持する効果に期待|日刊ゲンダイDIGITAL