
「友達近居」という言葉を聞いたことがありますか?
学生時代の親友や気の合う仲間と近隣に住み、趣味や食事など楽しい時間を共有し、それぞれの部屋を行き来して見守り合う、老後の住まい方です。独身者に限らず、配偶者との離別や離婚など、老後に「おひとりさま」になるケースは少なくありません。「子どもにはあまり面倒をかけたくない、まだまだ元気だけれど、ひとりではちょっと不安……」。そんな高齢者の新しいライフスタイルといえましょう。
メリット・デメリットも含め、「友達近居」について考えてみました。
老後は「気の置けない人」と暮らしたい

「友達近居」の定義は特にありません。これまでの個人の生活スタイルは維持したまま、ひとり(孤独)の不安感から解放される――イキイキした老後の中に「友達」というキーワードが入ったくらいに、緩く考えていただいていいのではないでしょうか。
「老後ひとりになったら、誰とどんな暮らしをしたいですか?」
「Reライフプロジェクト」が主に50代以上の約700人に自社ウェブサイトでアンケート調査をしたところ、「気の置けない人と、互いに気にかけながら干渉せず、近所かシェアハウスで暮らしたい」という声が多数寄せられました。
「気の置けない人」、「適度な距離を維持」、「プライバシーを確保」といった条件が満たされれば、ひとりの老後生活も充実して楽しくなるというわけです。「気の置けない人」には、同性のきょうだいを挙げた人のほか、友達や仲間など血縁でないつながりを求めている人が少なくないことがわかりました。 さらに、「見守りや手助けをしてくれる若い世代と交流しながら過ごせる場があればいい」と、異世代とのつながりを望む声もありました。
NHK特集に登場した「個個セブン」

数年前、NHKの番組で女性7人の「友達近居」が特集されたことがあります。その印象が残っているという方も多いようです。
このケースでは、7人の女性が同じマンションで暮らしていましたが、「友達近居」には、介護付き老人ホームなどで友達同士が別々の部屋に過ごしている例も含まれます。
番組で紹介されたのは、2008年、60~70代のシングル女性7人が集まって始めた友達近居グループの「個個セブン」。7人は、コピーライターや心理カウンセラー、民間企業の広報担当など、職業はばらばら。全員が初めから友達だったわけではなく、「働き続けて、いまひとり」が共通点でした。
マンションの部屋を別個に購入し、部屋を行き来して見守り合う生活が続いていました。スタートして十数年が経ち、年を重ねるにつれて、認知症、介護、後見人問題など、さまざまな試練に直面したようです。
「友達近居」に必要な備えとは?

「個個セブン」の最年少メンバーKさん(74)が、2022年4月の「婦人公論」で近況をリポートしています。
それによると、コロナ禍で、仲間内で楽しんでいた歌の練習や筋トレや、毎月1回外部にオープンにしていた会費制文化サロンの開催もままならなくなりました。それでも、課題図書を読んで語り合う読書会を続け、映画好きの仲間の提案で、手持ちの古い映画のDVDでの鑑賞会を企画。好奇心を失わないように互いに励まし合いました。
ただし、悔いが残ることもありました。仲間の1人が入院・手術するとき、保証人を引き受け、付き添って術後の説明を待っていたときのこと。遠距離介護していた独り身の叔母の容態が急変したとの連絡を受け、駆けつけたけれど臨終に間に合わなかったとも打ち明けています。すぐに病院を飛び出すか、とどまって説明を聞くか。「友達近居」の課題を突き付けられたといいます。
高齢期の心配事は介護だけにとどまりません。入院時の保証人、受ける治療方針の決定、遺体の引き取り、葬儀、亡くなったあとの片付けなど、避けられない事態がいくつも待ち受けています。
Kさんは、「友達近居」のおひとりさまに必要な備えとして、以下の3つを挙げています。
①認知症などで判断力が衰えたときのため、あらかじめ後見人を決めておく「任意後見契約」
②遺体の引き取りから葬儀、さらに死後の片付けの一切を任せる「死後事務委任契約」
③遺産などの行先を記した「遺言書」
「友達近居」のメリットとデメリット

では、「友達近居」のメリットとデメリットは何なのか、改めて考えてみましょう。
メリットとしてまず考えられるのは、友達がそばにいるので、気持ちにゆとりが出ることです。「気心が知れている」というのは、とても重要な要素です。そのときどきの喜怒哀楽を気兼ねなく表せるので、充実した毎日が送れるのは確かでしょう。
とはいえ、そのメリットが、人によってはデメリットになる場合もあります。他人に干渉されるのは嫌だと思われる方は、「友達近居」が逆にストレスになります。
「友達近居をやってみたい」という友人を見つけたら、よく話し合い、決め事をするなどして、「これなら精神的に負担にならない」と納得してから踏み切ることが求められます。
経済面でのハードルも

「友達近居」では、経済面についても注意が必要です。基本的に、集合住宅や介護付き老人ホームの別々の部屋で暮らすことになるので、一定の費用を捻出できないと実践できません。一概には言えませんが、安否確認など「介護サービス付き」の物件になると、一般タイプよりは割高になります。
前述した「Reライフプロジェクト」のアンケート調査には、こんな声も上がっていました。「パブリックスペースもプライベートスペースもある施設で気の合う人と暮らしたいという話を友人たちとしている。『いっそ田舎に建てる?』との意見は出るが、経費を抑えるために『食事とパブリックスペースの掃除は当番制』と提案すると、いつも話が止まってしまいます」(60代女性)。
理想的な「友達近居」を具現化するには、越えなければならないハードルがあることも理解しておきましょう。
まとめ

以上述べてきたように「友達近居」には、メリットもデメリットもあります。それでも、気心の知れた人と老後も関わり続けることで、人生はもっと豊かになるとも考えられるのではないでしょうか?
「個個セブン」のメンバー、Kさんは、近況報告を次のように締めくくっています。
「よく知らない者同士、ささやかな争いや行き違いはある。それでも、人と関わる豊かさは、煩わしさや淋しさ込みの豊かさであり、それを味わうことこそ醍醐味だと教えてくれる。先のことに気を病んでも仕方がない。いま、このときを大切に。それを積み重ねていくだけだ」と。
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