介護現場の高齢者虐待を防ぐには?家族が知っておきたいポイント

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近年、介護施設での高齢者虐待が増加傾向にあり、深刻な社会問題となっています。2024年の調査では、介護サービス事業所・施設での虐待件数が過去最多を記録。介護サービスの利用者の立場からも気になる問題です。

そこでこの記事では、虐待の実態と防止に向けた取り組みについて、介護サービスを利用する家族の視点から紹介しますので、最後までご一読ください。

深刻化する介護現場での虐待問題

厚生労働省の最新調査によると、2023年度に介護サービス事業所・施設で報告された高齢者虐待の相談・通報は3,441件にのぼりました。このうち1,123件が実際の虐待と判断され、残念ながら5名の方が亡くなるという痛ましい事態も発生しています。件数は3年連続で増加しており、介護現場における虐待防止は待ったなしの課題となっています。

参考:令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果|厚生労働省

高齢者虐待はタイプが多く見過ごされやすい傾向も

介護施設での虐待は、殴る・蹴るといった一般的にイメージされる暴力行為だけではありません。「身体的虐待」は全体の約半数を占め、不適切な身体拘束もこれに含まれます。しかし、次いで多いのが、暴言や威圧的な態度による「心理的虐待」で、高齢者の尊厳を深く傷つける行為です。

また、必要な介護や医療を行わない「ネグレクト」も全体の約2割を占めています。利用者の金銭を不当に使用するなどの「経済的虐待」も報告されており、虐待のタイプは様々であることも問題を見えづらくさせています。

虐待が起きる理由は意識不足がトップ

なぜ介護の専門職による虐待が起きてしまうのでしょうか。

調査によると、最も多い要因は介護に関する知識や意識の不足(77.2%)です。職員のストレスや感情コントロールの問題(67.9%)、倫理観・理念の欠如(66.8%)も主な原因として挙げられています。

こうした背景には、主に介護現場の慢性的な人手不足による過重労働が考えられます。特に夜勤時など、限られた職員で多くの利用者に対応しなければならない状況では、心身の疲労が溜まっていき、気持ちの余裕を失ってしまいます。その結果、本来なら丁寧に向き合うべき利用者への対応が雑になったり、イライラが態度に表れたりして、最悪の場合、虐待につながってしまうケースもあるのです。

家族ができる予防と対策

施設での虐待を防ぐために、家族にできることは少なくありません。

まず重要なのは、施設選びの段階で職員の研修体制や虐待防止に関する方針を確認することです。また、利用開始後は、定期的に面会をして利用者の様子をよく観察し、気になる点があれば職員とコミュニケーションを取ることが大切です。

万が一の場合に備えて、市区町村の高齢者虐待相談窓口や地域包括支援センターの連絡先を確認しておきましょう。ちょっとした変化や違和感であっても、早めに専門家に相談することで、深刻な事態を防ぐことができます。

施設における虐待防止の取り組み

介護施設では、2024年度から虐待防止に向けた体制づくりが法令で義務付けられています。

具体的には、

が必須となっています。

特に委員会活動では、虐待の早期発見だけでなく、日常のケアの中で不適切な対応が行われていないかを職員間で確認し合い、新人スタッフでも気軽に相談できる環境づくりを目指しています。また、職員のメンタルヘルスケアの充実にも力を入れ、心に余裕を持って利用者に接することができるよう配慮されています。

その上で、大切な家族を守るためには、家族としての協力も重要です。面会の機会を大切にして利用者の様子を確認し、施設側と密接にコミュニケーションを取ることで、早期発見・早期対応につながります。また、施設が整備している虐待防止の指針や相談・報告体制について確認しておくことも、安心してサービスを利用するポイントとなります。

参考:「その他【高齢者虐待の防止、送迎】(改定の方向性)」|厚生労働省

まとめ

高齢者虐待はデータから見ても決して他人事ではありません。家族による見守りはもちろん、施設の運営体制や地域全体での支援体制が鍵を握る社会問題となっています。

もし介護サービスを利用する中で不安や疑問を感じたら、すぐに相談窓口に連絡することが、大切な家族を守ることにつながります。

日頃から家族や施設側と積極的にコミュニケーションを取っておき、早期発見・早期対応につなげる意識が、より良い介護にも大切です。

参考:高齢者虐待防止の基本|厚生労働省
参考:高齢者虐待を知る|東京都福祉局