
「老人ホームには絶対に入りたくない」
このように言われた時、あなたは対応に困ってしまうはずです。無理やり入居を進めても、うまくいかなければ逆にご家族の負担も増してしまいます。そうならないために事前の準備や心構えが大切です。
今回の配信では、入居を拒否する理由や入居のメリット、デメリット、納得して入居手続きができるために事前にやるべきことを解説します。
ご本人の意向を尊重しながら入居してもらうための手引きとしてご活用ください。
親が老人ホームに入りたくない本当の理由

『環境の変化についていけない』
認知症を患っていると記憶力や判断力が下がります。その場合、新しいことが覚えられずちょっとした変化に戸惑い、混乱してしまう原因となります。そのため、大きい声をあげてしまったり、変な行動をとってしまったりするのです。
新しい環境に対する言葉にできない不安が、拒否の原因になっていることは少なくないのです。
『慣れ親しんだ家から離れたくない』
結婚し子供が産まれ、人生の大半を過ごした我が家には多くの思い出が詰まっています。こういった過去の記憶は認知症の方でも鮮明に覚えていることが多いです。
リラックスできる場所や使い慣れたものなど、そこから離れるのはわたしたちでも抵抗を感じるはずです。住み慣れた家からの引っ越しに近い感覚です。
この気持ちを理解しておくことはとても大切です。
『見捨てられた気持ちになる』
歳を重ねた親世代は以前と比べて動きが悪くなったり、判断力が鈍くなったりしてきていることを自覚しています。
守る対象であった子どもに、逆に守られるようになることで負い目を感じる人は多いです。その子どもから「老人ホームに入って欲しい」と言われると見捨てられたような気持ちになってしまうものです。
さらに、親世代は自身の両親を自宅で介護した経験がある方も多いため、家族が介護をして当然という認識も気持ちを助長してしまう要因になります。
『老人ホームに悪いイメージを持っている』
「あそこの病院(老人ホームなど)に入ったら終わりだね」ご近所で一度は耳にしたことがある会話ではないでしょうか。
極端な例ですが、昔でいう「姥捨山(うばすてやま)」のように思う人は少なくないです。
近年の施設は、リハビリスタッフが常駐していたり、レクリエーションが充実していたりと以前のイメージと比べて改善されている点も多いです。しかし、根強く悪いイメージを持たれて拒否されるケースが多いのが現状です。
以上があなたの親御さんが思う、老人ホームに入りたくない理由です。
これだけではありませんが、あなたの親御さんにも当てはまる項目は多いはずです。気持ちを理解することが説得する糸口を見つける第一歩といえます。
老人ホームに入居する3つのメリット

ここからは老人ホームに入居するメリットを3つご紹介します。
① 見守り目が行き届いている
ご自宅で24時間見守りをすることは物理的に不可能です。特に転倒する危険性が高い方は目を離すことができず、家族が疲弊してしまう原因になります。
老人ホームなどでは24時間体制でスタッフが配置されているため、見守る目が行き届くことが最大のメリットです。状況によって見守り支援機器なども併用することで転倒のリスクを下げる取り組みもしてくれます。
② 本人の社会性や心の健康が保たれる
一人暮らしで生活している場合、家族以外との交流がほとんど取れないケースがあります。他人と話をすることは社会性や心の健康を保つ上で非常に重要なことです。
老人ホームのスタッフや他の入居者と交流を持つことは「その人らしさ」を維持するために大切な環境なのです。
③ 家族の負担が軽減される
つきっきりで介護をしていると家族は自分の時間を取ることが難しくなります。ご家族自身の社会性や心の健康を保つ上でも、他者の力を借りることはとても大切です。
老人ホームに入居する3つのデメリット

前項では老人ホームに入居するメリットを紹介しました。
ここからはデメリットも3つご紹介します。
① 費用がかかる
老人ホームに入るといってもお金はかかります。
料金は公的施設か民間施設によって大幅に変わります。
公的施設の例として特別養護老人ホームがありますが、月額料金の目安として6〜15万円と言われています。ただ、特別養護老人ホームの入居は審査制で、場所によっては100人待ちと行った場所もあります。
すぐに入居できるわけではないことを理解しておきましょう。
民間施設である有料老人ホームは月額料金の目安として15〜35万円と言われています。特別養護老人ホームと比べてすぐに入居が決まることもありますが、入居一時金などもあり費用が高くなりやすい傾向にあります。
慌てて探すのではなく、特別養護老人ホームに早めに申請を出しておいて、入りやすそうな有料老人ホームも並行して探しておくことがオススメです。
② 自宅ではないので常に気をつかう
「住めば都」といいますが、慣れるまでは気を遣うのが自宅とは違う環境です。
後述しますが、老人ホームの内装や雰囲気を事前に把握しておくことがとても大切です。
③ 人によっては認知症が進行する
常に見守る目があるとはいえ、自宅よりもやることが少なくなったり、やれることが制限されたりするケースは多いです。自宅生活で保たれていた記憶力や判断力が下がることも念頭に入れる必要があります(※この考えは、入居されたタイミングで個人差がある為実際のデータなどはありません)
こちらも後述しますが、親御さんのやっていた活動や趣味を把握しておくことが大切です。
納得して入居してもらうためにやるべきこと

入居したくない理由やデメリットで触れた問題を解決することが納得して入居してもらうために重要です。
ここからはそれらの問題を解決するために具体的にやるべきことを紹介します。
自宅以外の交流の場に慣れておく
老人ホームでは集団での生活となります。他人との関わりが必要不可欠なため、自宅生活のうちに交流の場に慣れておくことが大切です。
具体的には地域の老人会や介護保険で利用可能なデイサービスを利用することです。また、老人ホーム内で「その人らしく」過ごすために、やっていた活動や趣味を把握するヒントにもなります。男性で「老人ホームに入りたくない」という方が多いですが、デイサービスに通所されている方は割と老人ホームの環境に慣れる方が多いです。
一緒に施設の見学に行ってみる
特殊な事情がなければ、事前に施設を見学することをオススメします。
親御さんと一緒に見学に行ければ老人ホームの雰囲気も掴みやすくよりいいと思います。
もし一緒に行けなければパンフレットを取り寄せたり、ホームページに載っている写真などを見たりすることで入居のイメージがわきやすいと思います。また、見学の際写真や動画を撮ってご自宅に戻ってからご本人にお見せする方も多いです。
入院中の病院や入居する予定の施設と連携する
自宅から直接入居するだけでなく、入院中の病院から入居するケースも多いです。
その場合は、入院中に関わっていたスタッフ(医師・看護師やリハビリなど)に入院中の様子を記したサマリーを作成してもらうように依頼をしましょう。
入居先に入院中の様子が伝わることで老人ホームでの生活にスムーズに溶け込むことができます。
素直な気持ちを伝える
前述の通り、親御さんが認知症を患っている場合は言葉にできない不安を抱えていることが多いです。あなたと同じくらいかそれ以上に不安に思っていることもあります。
そんな時にはご自身の素直な気持ちを伝えましょう。全ては伝わらないかも知れませんが、あなたの気持ちを理解し決断をしてくれる可能性もあります。素直な気持ちを伝えて納得されたというケースは、今までに何度もあります。
まとめ

老人ホームへの入所はご本人だけでなく、ご家族にとっても人生の岐路になります。
入居を決める前に、メリットとデメリットを考慮して今の生活で改善できる点も考えてみてください。
その時に力になってくれるのが、訪問診療の医師・ケアマネージャー、訪問・通所系のサービス担当者です。
自分だけで抱え込まず、いろんな人の助けを借りながら納得のいく答えを探してみてください。
きっと、その答えなら親御さんも納得してくれるはずです。