
「人生100年時代」の到来は、必ずしもメリットばかりをもたらすわけではありません。例えば、40代は公私ともに人生の転換期ですが、子育てと親の介護が同時に発生する「ダブルケア(二重介護)」に直面します。日本ではまだ常識や精神論で語られがちなこの問題ですが、日本以上のスピードで少子高齢化が進む隣国・韓国では、すでに個人の限界を超え、社会的な危機として深刻化しています。
そこでこの記事では、韓国の過酷な実態から、なぜダブルケアの負担が特定の世代に集中し泥沼化してしまうのかという背景を紹介します。私たち日本人がダブルケアのリスクにどう備え、どう生き抜くべきかというヒントをまとめて紹介しますので、最後までぜひご一読ください。
目次
40代の死因1位が「自殺」へ。超少子高齢化の先を行く隣国の過酷な現実

日本よりもはるかに過酷な受験競争と、世界最低レベルの出生率(合計特殊出生率0.72)で知られる韓国。40代はサンドイッチ世代と呼ばれ、韓国史上、重いプレッシャーを抱えています。
驚くべきことに、2024年の統計によると、韓国の40代の死亡者のうち実に26%を自殺が占め、がんを抜いて死因の1位となりました。特に男性の自殺率が急増しており、その背景には精神的な問題だけでなく、のしかかる経済状態の悪化があります。実に1970年代前半生まれの4割の世代の約4人に1人(25%)が、親のサポートと子どもの支援を同時に担うダブルケア(二重介護)の状況に直面しているのです。
韓国の40代は、親の介護、子どもの教育費、自分自身の老後不安という、三重のプレッシャーを同時に背負わされています。1960年代生まれのような、経済成長の恩恵をダイレクトに受けた上の世代よりも明らかにシビアな状況であり、親子の問題だけでは解決できない、悪循環にはまっていることを意味します。
自立できない子どもと、長寿化する親:「トリプルケア」へ至る泥沼の背景

なぜ、これほどまでに特定の世代に負担が集中し、一度はまると抜け出せなくなってしまうのでしょうか。背景として、雇用環境の悪化による子どもの自立の遅れがあります。
韓国では若年層の就職難や非正規雇用の増加により、社会進出が遅れた30代になっても親と同居し経済的に依存し続ける「カンガルー族」が急増しています。つまり、40代の親から見れば、高齢化によって医療や介護が必要な80代の親の扶養と、社会的に自立できない子どもの扶養が長期間にわたって重なってしまう構造になってしまっているのです。
さらに深刻なケースになると、子どもが結婚して共働きを始めた場合、今度は孫の世話まで押し付けられるトリプルケアへと発展します。こうなると、人生のほぼすべてのステージにおいて他者をケアする生活から抜け出せなくなります。行政の子育て支援と高齢者介護の制度は縦割りで分断されているため、家族の複数人のケアを同時に担う世帯にとってはさまざまな負担が個人に集中し、その結果、社会から孤立していく状況に陥るのです。
「制度の限界」と女性へのしわ寄せ:「ケアの社会化」が孕む罠

これまで、韓国政府も保育サービスや高齢者向けの長期療養保険など、国がケアを担うケアの社会化を推し進めてきました。しかし、ここにも深刻な構造的問題が潜んでいます。
社会全体に蔓延する長時間労働や、児童虐待や介護不正などのニュースによって民間の福祉施設への不信感が心理的なハードルとなり、結局のところ最後は信頼できる家族がみるべきだ、という世論になりがちです。そのため、せっかくの公的サービスが十分に機能せず、実質的な責任は家族の中でも主に女性へとしわ寄せが行くことになります。
男性の長時間労働やケアへの不参加が黙認されがちな一方で、女性は介護離職するか、あるいは働きながら介護も抱え込むというジェンダー不平等も問題です。このままでは、システムが不完全なまま家族に負担がしわ寄せされ、家族自体が成立しなくなる恐れがあります。
泥沼を生き抜くための「生存戦略」:過剰なケアを拒否する知性

超少子高齢化が一歩進む韓国の教訓から、日本の私たちが学ぶべきポイントは何でしょうか。それは、家族の世話は家族が抱え込まなければならないというこれまでの常識を一度疑ってみることです。
なかでも、過剰なケアを行わない自由があり、ケアを拒否する権利を持つことを自覚することが第一歩です。親を愛することと、親の介護のために自分のキャリアや子供の未来を犠牲にすることは全くの別問題です。すべてを一人で抱え込もうとせず、必要に応じてケアを社会保障制度や介護のプロに振り分ける視点を持つことが、共倒れを防ぐ方法となります。
日本には、育児や介護の悩みをまとめて相談できる「重層的支援体制整備事業」や、地域包括支援センターといった窓口が整備されています。当事者同士のネットワークに繋がることで、孤独で個人的になりがちな介護の問題を社会のネットワークにつなげる意識が大切です。
また、韓国では現在「低出産・高齢社会基本法」のもと、元気なシニア層を一時保育の担い手として雇用するなど、世代間でケアをカバーし合う試みも始まっています。国や地域のシステムを賢く活用し、内向きになりやすい家族だけで介護の問題を閉じ込めないことが、より一段と少子高齢化が加速する日本でも重要なアプローチになります。
まとめ

韓国の教訓から、日本でもダブルケアのリスクはすぐそこまで迫っています。感情論ではなく、親も、子も、あなた自身もそれぞれの人生を最後まで守り抜くために、合理的なテーマとして捉え直していきましょう。
【参考文献(URL)】
・AFPBB News 「韓国『サンドイッチ世代』40代に危機…死者4人に1人が自殺、がん上回る」
・AFPBB News 「韓国・1970年代生まれに迫る新たな試練…親と子どもの『二重介護』」
・中央日報 「80代の親と30代の子どもの両方扶養する…韓国の若い高齢者、15%が『ダブルケア』(2)」
・大原社会問題研究所雑誌(大高研道) 「韓国における中高年女性のダブルケア負担と制度的不正義」
・トヨタ財団(東恵子) 「日韓のダブルケア支援プロジェクトを通して」
・『労働調査』(山下順子)「ダブルケア月間:ケアを中心とした社会へ