2024年4月、介護報酬の改定が行われました。全体的な改定率はプラス1.59%となっている一方、訪問介護や定期巡回サービス、夜間対応型訪問介護では基本報酬の引き下げられました。ただ、介護現場や利用者からは今回の訪問介護のみならず介護保険サービス全体について将来的な不安や疑問が高まっています。
そこでこの記事では、介護報酬引き下げの内容と、訪問介護やデイサービスへの影響について紹介します。
介護報酬引き下げのポイント
2024年4月から介護報酬が改定され、全体としてはプラス1.59%となり介護業界に明るい兆しが見えていました。しかし、今回の改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられることがわかると、介護現場では今後の運営に対する不安が広がっています。
2024年4月1日から基本報酬が引き下げられた介護サービスは下記の3つです。
● 訪問介護
● 定期巡回・随時対応型訪問介護
● 夜間対応型訪問介護
減少率は2〜3%のため、訪問介護事業者の運営存続を危ぶむ声も少なくありません。
介護報酬の改定は、介護保険制度の財政健全化が大きな目的です。まず、厚生労働省の調査によると、近年、訪問介護サービスの利益率は全介護サービス平均を大きく上回っていました。厚生労働省『令和5年度介護事業経営実態調査結果』によると、訪問介護サービスの利益率は7.8%で、全介護サービス平均利益率の2.4%に比べ高い水準となっています。
また、厚生労働省は、「処遇改善加算」を拡充し一本化する際、訪問介護にはより高い加算率を設定しています。また、「認知症専門ケア加算」や「特定事業加算」をはじめ口腔ケア関連の加算も新設するなど、介護事業者の収益率を多角的にバックアップする方針です。加えて、近年、介護業界で経営効率化の推進の取り組みが広がり、事務作業の効率化などコスト削減の成果も加味された可能性があります。
ただし、実際には処遇改善や経営効率化を推進してきた事業所ほど減収する恐れがあり、介護サービスの内容や質を維持しながら、どこまで効率化を進められるかが課題です。
参照:24年度報酬改定 基本報酬 サービスで明暗 – ケアニュース by シルバー産業新聞|介護保険やシルバー市場の動向・展望など幅広い情報の専門新聞
訪問介護への影響
訪問介護事業者の経営悪化が懸念される中、今後ホームヘルパーの人員不足やサービス内容の縮小などが考えられます。そして、減収により介護事業者の経営悪化や廃業、質の高い介護サービスが維持できない、などリスクが高まるでしょう。
特に、訪問介護は、介護業界の中でも慢性的な介護職員の不足状態が続いています。そのため、高齢者の自立促進や在宅医療の推進が広がる中、利用者の日常生活そのものが成り立たなくなる恐れもあり、日本医師会も懸念の声を上げています。
『訪問介護適正化の影響を注視―江澤常任理事』
その上で、江澤常任理事は今回の改定を振り返り、プラス改定となったことを評価するとともに、「しっかりとサービスの向上がなされるようにしていきたい」とする一方、介護事業経営実態調査の結果を踏まえ、訪問介護の点数の適正化がなされたことに言及。「訪問介護は介護分野の中でも最も人材不足が著しいサービスであるばかりでなく、在宅医療は、訪問介護の生活の支えがあってこそ継続可能となることから、今後もしっかりその影響を注視していくべきだ」との考えを示した。
引用:介護報酬改定に関する答申取りまとめを受けて _ 日医 on-line
低所得者や重度の介護が必要な利用者は、経済的事情や手厚い介護の必要性により公的介護保険サービス以外を選ぶことが難しく、必要な介護サービスを受けられず生活の質が低下する心配があります。
デイサービスへの影響
今回の介護報酬改定では、デイサービスの基本報酬の引き下げは行われません。しかし、間接的にデイサービスにも影響が及ぶ可能性があります。
訪問介護の基本報酬が引き下げられると、デイサービスのほか訪問介護も運営する介護事業者の経営が悪化し、待遇悪化により人材確保が難しくなったり、介護業界全体のモチベーション低下や離職を招き、サービスの質低下につながる恐れがあります。結果として、サービス内容や利用者の定員の縮小、実費部分の値上げなどに繋がり、デイサービスへの影響も少なくないでしょう。
まとめ
訪問介護の介護報酬引き下げの影響が今すぐ現れる心配はありません。しかし、今後数年かけて徐々に出てくる可能性があります。
国は、介護サービスの効率化や、新たな財源の確保などの対策を進めるとしており、利用者が安心して日々を暮らし、介護事業者への影響を最小限に抑えることができるかが課題と言えます。