ドイツの老人ホーム事情

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ドイツは、人口に占める65歳以上の高齢者の割合が21.7%(2020年)。2050年には4人に1人以上が高齢者になると予測されています。

ちなみに日本の高齢者の割合は28.4%で、すでに4人に1人以上が高齢者。

この数字は世界で最高です。いずれにしても、両国が厳しい少子高齢化に直面しているのは事実で、その影響が様々な場面に表れつつあります。

福祉国家のイメージが強いドイツの老人ホーム事情を探ってみましょう。

世界で初めて介護保険を導入

1995年、世界で初めて公的介護保険を導入したのはドイツでした。その5年後、日本でも介護保険がスタートしますが、お手本になったのがドイツの制度です。

それまでドイツでは、老人ホームでの生活費が主に入居者の年金でまかなわれ、不足部分の多くが社会扶助によって補填されていました。

この社会扶助費の増大がドイツの社会福祉財政を圧迫し、介護保険制度導入のきっかけになったといわれています。 

ドイツでは、介護保険制度が発足して以降、保険料率を上げて財源を拡大したり、認定基準を緩和してサービスの受給対象者を増やしたり、度重なる制度改定を行ってきました。

柔軟な改革ができる「福祉国家」という印象をお持ちの方が少なくないのではないでしょうか?

福祉の担い手は民間の非営利福祉団体

ここで簡単に、ドイツの社会福祉について説明しておきます。

ドイツでは、福祉サービスの担い手として、教会組織や労働組合など多様な民間の福祉団体(非営利組織)が重要な役割を果たしています。

主なものとして挙げられるのが、
プロテスタント教会系の「ディアコニー」、カトリック教会系の「カリタス」、ユダヤ教会系の「ユダヤ中央福祉会」、労働組合の「労働者福祉会」、「赤十字」、「パリテート福祉団体」の福祉6団体。自治体が直接経営する高齢者施設はドイツ全体で2割もありません。

施設としては、高齢者が自立した生活を送れるように整備された独立居住型の「アルテンボーンハイム(老人居住ホーム)」、介護・看護サービスが提供される「アルテンプフレーゲハイム(老人介護ホーム)」があり、また、低所得層でケアが必要な人向けの「アルテンハイム」があります。さらに、異なるタイプを集積した複合型施設は「メールグリートリッヒェ・アインリッヒトゥンゲン」と呼ばれています。

ドイツの老人ホームは高額?

ドイツ在住35年の作家、川口マーン惠美さんによれば、ドイツの老人ホームはどこもかしこも料金が高いといいます(著書「老後の誤算 日本とドイツ」)。

ドイツの民間介護サービス会社、ドイツシニア基金協会の試算によると、「要介護度3」の人が老人ホームに入った場合の月額費用は、

①介護費1656.98ユーロ(約21万5000円)
②部屋代425.27ユーロ(約5万5000円)
③食事代152.10ユーロ(約2万円)
④その他施設の修繕費積み立てなど545.73ユーロ(約7万円)

で、合計2780.08ユーロ(約36万円)。
そのうち介護保険が1262ユーロ(約16万円)なので、差額の日本円にして約20万円は自己負担になるそうです。

川口さんが視察したプロテスタント教会系のホームの場合、「要介護度1」の人の自己負担額は約35万7000円、「要介護度2~5」の人は約32万円でした。


教会系の施設だからと言って、必ずしも貧困層にやさしい経営というわけではなさそうです。

自己負担額は地域によってかなり異なります。物価や施設スタッフの人件費の関係で、南西部は高額で旧東独地域は比較的安いようです。

それにしても、年金のほかにかなりの蓄えがないと、ドイツでは老人ホームに入れないということのようですね。

医療格差が問題に

ドイツでは、一般的な「法的強制医療保険」と、お金持ちのための「プライベート医療保険」があります。

強制保険の患者は、近所のクリニックでもすぐに診療してもらえず、数日待ちが珍しくありません。プライベート保険の加入者しか診療しないという医院も増えていて、強制保険の患者は門前払いになるそうです。


国民皆保険制度が整っている日本と比べると、医療格差が問題化しています。

ただ、日本の状況も楽観はできません。たとえば、日本の人口あたりの医師の数は、実はドイツの6割以下です。

現状でも医療現場に大きな負荷がかかっていますが、団塊の世代が後期高齢者になる2025年以降、増加する患者に対応しきれるかどうか、懸念されています。介護人材も、2035年には約79万人が不足すると予測されています。

まとめ

日本の老人ホームは、「要介護3」以上であればだれでも、自己負担額の少ない特別養護老人ホーム(特養)で受け付けてもらえて、負担額は月額10万円程度で収まります。

順番さえ回ってくれば、生活保護を受けている人でも介護を受けられ、最低限プライバシーが保たれた部屋で快適に過ごすことができます。

特養は地域によって、入居待機の人数が多いことが問題になっています。そのような場合、特養以外で、サービス付き高齢者向け住宅や認知症向けグループホームなどの施設が、低所得層でも入居可能な候補になります。

それぞれ事業者が、人数に上限を設けて受け入れています。施設の家賃については住宅扶助、その他生活費については生活扶助の限度額内で収まる施設を探すことになります。
いずれにしても、市町村のケースワーカーに老人ホームへの入居意思を伝えて相談することで、解決の道が見つけられそうです。

川口さんは、日本人は支払っている税金や保険料のわりに、受けている福祉は悪くなく、「ほとんど社会主義の国のようだ」と語っています。

それは、実際に日本で、ご両親の入居施設探しに奔走した際に実感したことだそうです。「日本の方が高齢化の進み具合は深刻なのに、介護や医療において、ドイツより恵まれている。将来の世代が心配になるほどです」とも言っています。


日本の老人ホームは高額と思われているかもしれませんが、実は、低所得層も切り捨てられずに入居できる仕組みがあるのです。

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